さて、このホールは我々にどんな物語を語りかけてくれるでしょう。
ティーグラウンドに立つあなたの目の前に広がるのは、単なる18のホールではありません。
それは、設計家が大地をキャンバスに描いた壮大な交響曲です。
元建築士として世界中のコースを旅してきた私、青山悟が、あなたのスコアカードに“物語”を刻むご案内をします。
この記事を読めば、オリムピックナショナルがあなたに仕掛ける知的な問いかけが聞こえてくるはずです。
プレーが、コースとの対話に変わる。
そんな一生モノのゴルフ体験へ、あなたをお連れします。
目次
オリムピックナショナルという名の交響曲を聴く前に
このクラブが持つ36ホールは、それぞれが独立した個性を放つ、二つの交響曲と言えるでしょう。
プレーの前に、まずはその指揮者が誰で、どのような想いでタクトを振っているのかを知ることから始めましょう。
指揮者は誰か?- EASTとWEST、二人の巨匠との対話
EASTコースの指揮者は、ペリー・ダイ率いるダイ・デザイン社。
彼の父、ピート・ダイから受け継がれたオールド・スコティッシュ・デザインの血統が、その設計思想の根幹に流れています。
うねるようなフェアウェイ、芸術的なマウンド、そして広大なバンカー。
それはまるで、自然の地形と戯れるように描かれた、優美で挑戦的な旋律です。
一方、WESTコースのタクトを振るのは、ジム・ファジオ。
「ファジオ・マジック」と称される彼の設計は、自然の地形を最大限に活かし、美しさと戦略性を見事に両立させます。
ダイナミックな丘陵地帯を舞台に、彼はプレーヤーの知性と勇気を試す、ドラマティックな楽章をいくつも用意しているのです。
あなたはどちらの物語を選ぶ?- EASTとWESTの個性の見極め方
「EASTはグリーンが難しい」「WESTは戦略的」といった評価を耳にすることがあるかもしれません。
プレーヤーそれぞれの視点が垣間見えるオリムピックナショナルの口コミを覗いてみるのも、コースの多面性を知る上で一つの楽しみ方と言えるでしょう。
それらは、まさに二人の設計思想の違いから生まれる声なのです。
ダイ・デザイン社が手掛けたEASTコースは、プレーヤーに芸術性への理解を求めます。
ポテトチップスのように複雑なアンジュレーションを持つグリーンは、ただピンを狙うだけでは決して微笑みません。
設計家が意図した「正しいルート」を読み解く感性が試されるのです。
対してファジオが創り上げたWESTコースは、よりダイレクトにプレーヤーの知性へと挑戦状を叩きつけます。
大胆な打ち下ろしや谷越えのホールは、リスクを冒す勇気と、それを制御する冷静なマネジメント能力の両方を要求してくるでしょう。
どちらが優れているという話ではありません。
あなたがゴルフに何を求めるかによって、その日の物語は全く違う表情を見せるはずです。
設計家との対話が始まる – EASTコース名物ホール探訪
序曲:エーデルワイス6番 – 川のようなバンカーが問いかけるもの
ティーグラウンドに立つと、まず目に飛び込んでくるのは、グリーンまでうねりながら続く、まるで白い川のような長大なバンカー。
多くのゴルファーは、このバンカーを「避けなければならない障害物」としか見ないかもしれません。
しかし、少しだけ視点を変えてみましょう。
なぜ、設計家はここにこれほど長大なバンカーを配置したのでしょうか。
建築士の視点から見ると、これは地形との調和から生まれた必然のデザインなのです。
そして、ゴルファーに対しては「さあ、あなたはどのルートで私に挑みますか?」という、リスクと報酬の選択肢を突きつけています。
安全にバンカーを避けるのか、それとも最短ルートを狙って果敢に攻めるのか。
その一打一打が、設計家との対話になるのです。
激情:オーキッド17番 – 池に囲まれた舞台で試される精神力
静寂に包まれた中に、水面だけがキラキラと光を反射している。
池に浮かぶようにして存在するグリーンは、息を呑むほどに美しく、同時にプレーヤーの心を静かに締め付けます。
なぜ設計家は、最もゴルファーの心が揺れる終盤の17番に、これほど美しい試練を用意したのでしょうか。
それは、スコアという結果だけでなく、この極度の緊張感と、それを乗り越えた先の達成感、そして何よりこの美しい景観そのものを味わってほしいというメッセージに他なりません。
フィルムカメラのファインダーを覗くように、このホールの造形美を心に焼き付けてください。
その記憶こそが、スコアカードには記されない、あなただけのトロフィーとなるのです。
WESTコースが試す、ゴルファーの知性と勇気
思考の迷宮:シバザクラ1番 – 雄大な打ち下ろしに隠された罠
WESTコースの幕開けを告げる、雄大な打ち下ろしのスタートホール。
目の前に広がる開放的な景色は、プレーヤーの心を高揚させ、思わず力いっぱいクラブを振り抜きたくなる衝動に駆られるでしょう。
しかし、それこそがジム・ファジオが仕掛けた最初の問いかけです。
「この景色は、あなたを大胆にさせるための誘惑か、それとも冷静な判断を曇らせる罠か?」
よく見ると、フェアウェイの要所にはバンカーが巧みに配置され、安全なエリアは見た目以上に限られています。
このホールが求めるのは、力ではなく思考力。
景色に惑わされず、自らの力量を冷静に判断し、最適なルートを導き出すマネジメント能力が試されます。
決断の舞台:カメリアコース – フラットな大地が求めるショットの精度
一見すると、カメリアコースは起伏の少ないフラットな地形に見えるかもしれません。
しかし、建築の世界では「平坦に見える土地ほど、設計家の意図は色濃く反映される」と言われます。
このコースでは、池やバンカーといったハザードが、まるでチェスの駒のように絶妙な位置に置かれています。
それらは、プレーヤーの心理を巧みに揺さぶり、わずかなショットの乱れを誘うのです。
設計家が意図する「正しいルート」は、まるで細い一本の糸のようにしか存在しません。
その糸をたどるためには、一打の妥協も許されない、高いショットの精度が求められます。
あなたの決断力と技術のすべてが、このフラットな舞台の上で試されることになるでしょう。
アリソンバンカーの罠は、設計家からの贈り物
なぜ私は、美しいバンカーに吸い込まれるのか
告白しますと、私には「日本一ゴルフがうまくならないゴルフライター」という、不名誉な(しかし、どこか気に入っている)あだ名があります。
その原因の一つが、コースの造形美、特にアリソンバンカーの美しさに心を奪われてしまうことです。
深くえぐられた砂地と、切り立ったアゴが作り出す陰影のコントラスト。
それはもはや単なるハザードではなく、大地に刻まれた彫刻作品です。
オリムピックナショナルに点在するアリソンバンカーを前にすると、私はその芸術性に魅入られ、吸い込まれるように打ち込んでしまうのです。
もちろん、スコアは散々なものになります。
しかし、その一打から始まるバンカーとの格闘は、私にとって設計家との特別な対話の時間でもあるのです。
バンカーとの対話法 – 砂の巨匠からのメッセージを読み解く
アリソンバンカーの深いアゴや独特の形状は、ゴルファーに何を要求しているのでしょうか。
それは、単に「出すのが難しい」という技術的な挑戦だけではありません。
「さあ、この絶望的な状況から、あなたはどうやって活路を見出すのか?」
設計家は、その一打を通して、あなたの精神力、創造力、そして困難に立ち向かう勇気を見たいのです。
バンカーショットを「罰ゲーム」と捉えるのは、あまりにもったいない。
ぜひ、「設計家と一対一で向き合える、特別な対話の機会」と捉え直してみてください。
そうすれば、砂の中からの一打が、忘れられない記憶に変わるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q: EASTコースとWESTコース、初心者におすすめなのはどちらですか?
A: 青山悟の視点から回答します。
「スコア」を基準にするなら、フェアウェイが比較的広いWESTコースかもしれませんが、「物語」を楽しむなら、設計思想が色濃いEASTコースも素晴らしい体験になります。
大切なのは、どちらのコースの「問いかけ」に、あなたがより心惹かれるかです。
Q: 名物ホールは何番ホールですか?
A: 一般的にはWESTのシバザクラ1番の雄大な打ち下ろしや、EASTのオーキッド17番の池に囲まれたショートホールが挙げられます。
しかし、私が考える真の名物ホールは、あなたがプレーを終えた後も心に残り、設計家の意図について考えさせられるホールです。
ぜひ、あなただけの名物ホールを見つけてみてください。
Q: ドレスコードは厳しいですか?
A: はい、伝統的なゴルフ場のマナーが尊重されています。
ご来場の際はジャケット着用が推奨されており、Tシャツやジーンズ、サンダルでの入場はできません。
これはコースという「舞台」への敬意の表れ。
紳士淑女として、その場の空気を楽しむ心構えも大切です。
Q: コース設計家のことを知っていると、ゴルフはもっと楽しくなりますか?
A: 間違いなく、何倍も楽しくなります。
設計家を知ることは、絵画を観る前に画家の人生を知るようなものです。
なぜこの場所にバンカーがあるのか、なぜグリーンが傾いているのか。
その一つひとつが設計家からのメッセージに見えてきます。
スコアはただの数字ですが、その対話の記憶こそが、真のトロフィーになるのです。
まとめ
オリムピックナショナルでの一日は、単なるラウンドではありません。
ダイ・デザイン社とジム・ファジオという二人の巨匠があなたのために用意した、壮大な物語を体験する旅です。
この記事でお伝えした視点を持ってティーグラウンドに立てば、今まで見えなかったコースの声が聞こえてくるはずです。
風の音、バンカーの形、木々の配置。
そのすべてが、あなたへの問いかけです。
スコアはただの数字。
コースとの対話から生まれる記憶こそが、あなたの真のトロフィーです。
さあ、あなただけの物語を、そのスコアカードに刻んできてください。